軒先の憂鬱

粗悪なる闇石鹸

曝葬

ふざけるなよお前、お前というのは、お前のことを言っています。

君だけだよも永遠に好きだよもお前が嘘にしたね。俺より背が高い手近な男に惹かれて勝手に消えてった。お前を信じて手を尽くして良かった、当たり前に他の運命全部切った、それでもお前が俺と居ないことを選んだ、それなら仕方ないなあと思えるからです。互いの恋愛経験など一つも関係ない。これは誠実さの問題だからだよ。

俺はずっと怒ってるよ。お前が心を見せなかったと吐き捨てるように言ったことも、邪魔になった俺を突き放すために叶える気もない夢を言い訳にしたことも、愛してなかったと言い放ったことも改竄した記憶を押し付けてきたことも。俺と会えない理由のすべてが嘘だった。どんなに寂しくても俺はお前の意志を尊重したけどお前は夢を掴もうと努力することもなかったし、俺と会わなくなって空いた時間はロン毛に使ってたんだね。全ての嘘を信じた俺を愚者にしてくれてありがとう。お陰で想い出が何も分からなくなった。俺って生きてたんだっけ。

過去を足蹴にされていい人間などいないんだよ。試し行為なら下品すぎる。あんな風に崖の上で突き飛ばされると思ってなかった!ただのマイブームなら言ってよ。そしたらちゃんと心の戸締まりをしておいたのに。剝き出しの心に根性焼きをありがとう。俺があのまま自殺していたらきっと死骸でマスターベーションをするのでしょう。俺の死骸を素材に造った可哀想な子のアバターで誰かと仲良くなってエロいことするんでしょう。人生という長編小説に、恋人の自殺を挿入したかったんでしょう。ドラマティックだもんね。クソがよ。人を文字列にすんな。絶対にお前が理由では死んであげない。数年経って、あんたに死ねって言われたら死にますよと開き直ったね、言ってやらねえよキチガイ。謝罪にも贖罪にもなってねえんだよ、舐め腐りやがってふざけんな。

君は俺が要らなくなっただけ。素直に認めて。

手に入れた分だけ手放したかったんでしょ。新しいゲームの方がいいよな、そりゃ新鮮で楽しいと思うよ。

みっともなく縋る俺のことをどう思った?どんな気持ちで嘘ついた?自分のこと嫌いになりたくなかったんでしょ。かわいかったんだよね、仕方ないよ。俺にとっても俺より君の方がかわいかったよ。かわいいは正義、君は正義だった。

これから先、誰かから愛みたいなものを手渡されるとして、それは欲望がつくる錯覚なのかもしれないね。でもね、きらきらして見えたことは本当で、俺は心底嬉しかった。

生まれた時から役割が決まっていて、知らない前科を負わされても、全部なかったことにされても、誰にも信じてもらえなくても、ちゃんと我慢していれば報われると思ってた。そんなのぜんぶ勘違いで、心の残骸だけが残った。人生の参加賞ってこれのことみたいだけどそれなら俺、何も要らなかったな。

存在を肯定されてみたい、自分の呼吸を許したい、生まれてきてから願ったことなどそれだけです。

あの捨てたい過去を生き延びた俺だからこそ君の心に触れることを許された気がして、生まれて初めて俺は俺で良かったと思えた。こんな瞬間が来るなんて夢にも思わなかった。イヤホン分け合って、すべてが大丈夫になった。6分間の永遠。補完と肯定、唯一無二絶対好きな人の唯一無二になれたんだ。残骸に心が吹き込まれた。これは絶対本物だ。無敵モードは死ぬまで続くと思ってた。ふたりで形成したひとつのアイデンティティで永遠に最強のまま生きていきたかった。

どうしてこんなに思い出をくれるの、両親や友達の不在まで埋めてくれるの。俺だって君を満たしたい。押し付けられた環境なら全部取り替えてあげるから、君が隣にさえいてくれたら何もいらないと本気で思った、時間もお金も内臓もあげる覚悟だったよ。金ごときで最高を邪魔されたくなかった俺は、俺と君を幸せにしたくて会社に入った。だって行動だけが証だから。君はiPhoneをいじりながら、あんたつまんなくなったね、と言い捨てた。変わったのは俺じゃない、君の気分だよ。君は俺と生きる覚悟なんて最初からなかった。Tiktokerという肩書を得ても君は全然幸せそうじゃなかった。つまらんのはそっちです。不安定な生活や過激なプロフィールに面白さはありません。君は、わざわざ死にかけの子どもを選んで、名前をつけた特別な希望を手渡して、飽きたらそれを破壊して、もっと強烈な不安と不信を植え付けてきたんだよ分かってる?俺が何をしたの?生まれてきたことが間違いだったって教えてくれてるの?なあ、生半可な気持ちで触るなよ、どうせ捨てるなら拾うなよ。こっちは身体も心もある人間なの、生きてるんだよ。この先誰のことも愛せる気がしないよ。他人のいる世界で生きていかなきゃいけないのに、赤の他人を信頼とか未来永劫無理みたい。こんなじゃなかったと言いながら、他の人の真似をして俺は継ぎ接いだゾンビになった。

君が求めていたのは有用感による承認欲求の補填で、俺はたまたま便利だったに過ぎない。君は好きだよ救われたよという言葉の応酬ができればよかったらしい。人生ごと抱きしめたふりが上手だったよ。耽美耽美、酔えてよかったね。君にとっていつだって話したいひとだったはずの俺は最後、怒りをぶつけるための泥人形になった。

俺のことを選ばない夜、君は性欲を正しく認識していましたか。制御できるものだと驕っていませんでしたか。本当は人格なんかどうでもよかったんでしょ。分かりやすい筋肉、社会的な甲斐性、庇護欲への刺激が好きだったんだね。美少女ヒロインごっこ第一話終了、俺は永久に物語から退場。電車代に負ける俺、ほんま草。全部出すといっても拒絶したのは時間が惜しかったからですよね。時間も金もかけたくない、それで充分なのに君は傷つけ足りないみたいだった。俺のつまらなさのせい、俺の選択のせい、本当はずっと重かったなんて後から言わないでほしかった。やめてと何度言っても刺し続ける君は最後に「円満に話し合えたね、友達になろう」と言った。最初から意思疎通なんてできてなかったのかもなあ。君は支配していて楽しかった?与えた後にすべてを奪って叩き壊すのって気持ちよかった?俺、それは一生知らなくていいや。

君はバカだ。でも面白くて優しい、だからきっと永遠に人気者だよ。

だけど、愛と人気はちがうから、君が君から逃げ続けるうちはちゃんと傷つき続けてください。俺を不能にしてまで手に入れたかったのはそんなんなの?幸せになれよふざけんな。俺は君が居なくなってさみしかったよ。いつでもトンカツ食えるようになったってさみしかった。初めてひとに向き合ってもらえたと思った。生きる意味にしてた。君とずっとずっと喋っていたかったし何でも2人で乗り越えて行きたかった。ああ、馬鹿だなあ。俺を留め置く錨は君しかなかった。君を失って何もかも大切じゃなくなった。どうでも良い人生を他人に押し付けるわけはいかない。そんなものは俺ですら要らないの。なあ、俺たちは絶対に二度と人生が交わらないと良いね、俺の見えないところできちんと幸せでいてね。なりたい自分と今の自分をまぜちゃわないで、ちゃんと鏡を見て。自分を甘やかさずに大切にして。そしたら君は、絶対にちゃんと幸せになれるよ。その時が来たら臆さず両腕を広げて迎えるんだよ。後生だから、人生の敗戦処理などしないで。

俺はもう誰も信用できる気がしません。傷つけられてもヘラヘラと笑うのは痛がる余力がないから。でもな、これほどの仕打ちを受けても、愛して良かったって言ってやる。大好きな君の最悪な側面を知れてよかったと思ってる!愛してよかった!最高だった!同じ結末だってかまわない、何度だって味わいたいよ!!

君があの頃より老けて強情になって狂ったクソババアになっても俺は大好きだったと思う。言葉の届かない君は死者と同じ。眠りは仮死、今宵も目を瞑ります。

君を今も愛してます。嘘のない気持ちです。解放、それが、俺の与えられる最後の、一等の贈り物です。人を愛することは気持ちがいい、本当に愉しい、違いが苦しくても痛くても幸福だった。あの感覚を君にも教えてあげたかったなあ。ごめんね。夢の国から出ても、半券握りしめて生きていくよ。どうか自由を心から楽しんで。

さようなら!

仮面浪人

在籍大学はセンター試験の時期に期末試験を詰め込んで言った。

在籍大学「仮面はわが大学の学生だ。単位と生き、単位が死ぬ時はともに滅びる」

第一志望「仮面を解き放て。あの子は浪人生だぞ!」

在籍大学「黙れ第一志望! お前にあの仮面の不幸が癒せるのか!貴様に落とされた浪人が、後悔を逃れるために投げて寄越した窮策が仮面浪人だ。浪人生にもなれず、大学生にもなりきれぬ、哀れで醜い可愛いわが生徒だ。お前に仮面を救えるか!」

第一志望「わからぬ。だが合格させる事はできる」

在籍大学「どおぉやって合格させるのだ、仮面が純浪と戦うというのか!」

第一志望「違う、それでは多浪にさせるだけだ!」

在籍大学「小僧、もうお前にできる事は何もない。お前はじきに現役や純浪に入学される身だ。夜明けとともに仮面の心を立ち去れ。」